キャリア

2026年09月25日

「職人さんは経験があるので感覚でもいい。だけど私たちはダメ」――数字と仕組みで、みんなが動ける現場をつくる

目次

「職人さんは経験があるので感覚でもいいと思う。だけど私たちはダメだよって」

現場での判断について尋ねたとき、彼女はそう言い切りました。

大学院修了後に大成建設に入社し、監理技術者を目標に経験を積んできた小松祥子さん。現在は水害対策の大規模インフラ工事で所長を務めています。彼女が仕事で一貫して大事にしているのは「感覚」ではなく「数字」と「仕組み」でした。

その理由を探っていくと、大変な仕事も淡々と分解していく思考の習慣と、周囲への細やかな目配りが見えてきました。

これから責任あるポジションを目指す女性建設技術者の方々に、参考にしていただきたい考え方をお届けします。

「一個ずつ見たら、やれば終わることなんですよね」

――現場の責任者となると、抱える仕事の量も相当なものだと思います。大変そうな仕事を前にしたとき、どのように受け止めているのでしょうか。

問題解決を考えることが、もともと好きなんです。大変そうだなと思いながらも、こうなったらいいなと考えているうちに、だんだん楽しくなってくるんですよね。

建設業は、何かしら工夫をして工事が早く終われば、結果的に儲かる仕事です。だから、どうやったら簡単にできるかを考えることは、私にとってそれほど苦になりません。

――それでも、目の前の仕事が山積みになると、途方に暮れてしまいそうです。

仕事がものすごくたくさんある時は、どうしよう、終わらないかもしれない、と思うこともあります。でも一個ずつ見たら、やれば終わることなんですよね。五個あるとどうしようと思いますが、一個ずつ手をつけていけば、大したことはありません。

これまでいくつもの現場をやってきた経験から、大体なんとかなると思っています。

「それは何キロなの? 何トンなの?」

――現場では、長年の経験を積んだ職人さんの「感覚」が判断の軸になる場面も多いのではないでしょうか。

感覚やニュアンスは、人に伝えるのが難しいと思うんです。自分のニュアンスと、その人のニュアンスは少し違っていたりしますから。だから誰にでもわかる言い方をしたり、数字を見せるようにしています。自分だけがわかるのではなく、誰でもわかるように。

職人さんは「こんなのいけるよ」という感じで来られます。それを受けて、うちの職員には「いけるよって、なぜそう思うの?」と聞きます。私はいけないと思うけれど、どういう理由で大丈夫と言っているのか。「それは何キロなの? 何トンなの?」と問いかけます。

そうやって数字に落とし込んでいくと、ここには何トンまで置けるのか、置けないのかが決まります。職人さんの感覚は感覚でいいと思っていますが、うちの職員には、きちんと数字で決めなさいと伝えています。

職人さんは経験があるので感覚でもいいと思うんです。だけど私たちはダメだよ、と。

――数字にすることで、職人さんとのやり取りはどう変わるのでしょうか。

職員に「感覚のままではダメだと思うよ」と伝えると、職員も「なるほどな」となります。それを職人さんに「だからこういう風にしたい」と説得すれば、職人さんも絶対「そうだね」と言ってくれるはずなんです。

数字で決めて、この値より上ならOK、下ならダメだと、そうやって基準をきちんと決めないと、みんな迷ってしまいますから。 

>>>> 

komatsu_photo1.webp

<<<< 

「まず一回やってみて、ダメならダメで変えればいい」

――「数字」と並んで、「仕組み」という言葉もよく出てきますね。

ビジネス本を読むのが好きで、仕組みを作る、仕組みを作って回していく、基本的にそういう風に考えるようにしています。目指しているのは、自分がいちいち関与しなくても動くような状態ですね。

後輩に伝えるときも、「仕組みを作りなさい」という言い方はしません。自分がここまで決めてあげないと次の人ができないから、それはあなたの仕事だよ、と伝えます。決めてあげないと、その下の人が迷ってしまいますから。

――とはいえ、決めた基準や仕組みが最初からうまく機能するとは限らないと思います。

一回やってみて、うまく伝わらないところがわかったら、線引きの場所を変えます。まず一回やってみて、ダメだったらダメで変えればいい、と考えています。

その後それを活かして、次にいいものを作れれば別にいいので、いちいちへこむな、という感じですね。

――その「まずやってみる」という構えは、どこかで身についたものなのでしょうか。

以前、会社でビジネスコーチングの研修を受ける機会があったんです。三か年の研修で、一年目は正直、なんでこんなものを受けなければいけないんだろうと思っていました。それが二年目ぐらいから、自分のマインドを変えること、考え方の整理の仕方、リーダーとはどういうものか、そうしたことを学べるすごくいい機会だなと思うようになりました。

今こういう状況ですごく大変です、という話をすると、先生が「こういう風にしてみたら」と言ってくださるんです。その先生はすごい人だと思っているので、そう言われるならやってみようかな、と。じゃあ明日からその方針でやってみよう、という感じですね。

「部下の子にも、おーすごいじゃんって」

――数字や仕組みで現場を動かしていく一方で、人との関わり方において意識していることはありますか。

やっぱり、ありがとうという感謝は伝えなければと思っています。仕事の場面でも本当にそうしていて、やってくれてありがとう、と思ったら、そこはありがとうと伝えます。部下の子であっても、支援をお願いしている別の部署の人であっても、それは絶対に伝えています。

自分がこれぐらいかなと思っていたものより、いいものを作ってくれたときには、こんな風にしてくれてありがとう、と伝えます。

――褒めることについては、どう考えていますか。

部下に対しても褒めたいと思っています。褒めることは、すごくいいことだと思うんです。絶対、自分だって褒められたら嬉しいじゃないですか。なので部下の子にも、おーすごいじゃん、と言ったりしています。

>>>> 

komatsu_photo2.webp

<<<< 

「みんなの活躍できる幅を広げたい」

――現場での積み重ねとは別に、この先目指していることを教えてください。

私たちの年代は、あまり女性が周りにいないんですよ。だから比べる相手がまずいない。土木の同期も女性は二人ぐらいしかいませんでした。その子もその子で頑張っているし、私も頑張っているし、なんだか一緒に頑張ろう、という感じでやってきました。

女性がそんな苦を感じなくても、楽しく現場で働ける場所をまず作りたいんですよね。建設業界で働く女性を、もっと増やしたいと思っています。

普通の仕事は、別に時短とか、ビハインドのようなことをしなくてもやっていけるのに、建設業界だと「まだ子育てしているので現場に出られません」とか、そういう感じになりがちです。そうじゃない業界にしたいなと思っていて。現場にいれば、そういうこともできますから。

――現場に立ち続けているからこそ、変えられることがある、ということですね。

やっぱり、みんなの活躍できる幅を広げたい。そしていいものを作る。それが会社にも貢献できますから。

みんなにも早くいろいろなことができるようになってほしい。何年目だからということではなく、どんどん仕事を教えてあげたい。そう思っています。

取材を終えて

「職人さんは経験があるので感覚でもいいと思う。だけど私たちはダメ」――一見すると厳しい言葉ですが、そこには職人さんのやり方を否定しない姿勢と、自分たちには数字で語ることを求める線引きが、同時に込められていました。

感覚を数字に、経験を仕組みに変える。その作業は決して華やかではありません。それでも「一回やってみてダメなら変えればいい」という軽やかさと、「おーすごいじゃん」と部下を褒める言葉が、その仕組みに血を通わせているように感じました。

小松さんが見ているのは、自分の現場だけではありませんでした。みんなの活躍できる幅を広げたい――。地道な技術の話と、遠くを見る眼差し。その両方を併せ持つ人でした。

Profile

小松 祥子(こまつ しょうこ)

JOINT VENTURE大成・鹿島建設共同企業体 石神井川シールド作業所 作業所長・現場代理人。 大学院修了後、大成建設に入社。監理技術者を目標に経験を積み、現在は石神井川シールド作業所の作業所長・現場代理人を務める。家庭では夫と役割を分担しながら、現場の第一線に立ち続けている。

保有資格

一級土木施工管理技士 ほか

この記事のキーワード

Share