キャリア
2026年08月28日
「何が壁なんですかね、むしろそれって」――悩みが小さくなる、菊池さんの考え方
目次
「何が壁なんですかね、むしろそれって。時間ですか? 体力ですか?」
育児とキャリアの両立について尋ねたとき、彼女はそう静かに問い返してきました。
新卒で戸田建設に入社し、海外赴任、産休・育休を経て、自社の新本社ビル建て替えプロジェクト「新TODA」(※)に初期メンバーとして参画。現在はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の最前線で活躍する技術者の菊池さん。新TODAの現場にいた当時は、子どもと会えるのが週2日という時期もあり、帰宅が夜遅くなる日も――そんな日々を過ごしながらも、彼女は「壁じゃなかったですね」と言います。
その理由を探っていくと、菊池さんの一貫した思考の習慣が見えてきました。悩みを感情のまま抱え込まず、「事実として何が起きているのか」を確かめにいく姿勢です。
これからのキャリアを模索する女性建設技術者の方々に、未来へ一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。
※新TODA(戸田建設本社ビル建て替えプロジェクト):社内プロジェクト名「新TODA」として推進され、完成後は「TODA BUILDING」として2024年11月に開業。戸田建設が東京・京橋に開発した大規模複合ビルで、高層部のオフィスと低層部の芸術文化施設(ミュージアムやギャラリー等)で構成され、アートとビジネスが融合する街の拠点となっている。
参考:2024年秋「TODA BUILDING」がグランドオープン|PR TIMES
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「優秀な後輩が活躍してくれるって、最高じゃないですか」
――建設業に限らず、産休・育休によるブランクでキャリアが止まってしまうのではないか、と不安を抱く方が少なくありません。「後輩に追い越されるのが怖い」という声もよく聞きます。菊池さんには、そうした不安はありましたか?
それって、「誰と比べるか」じゃないですかね。同期と同じ時間軸で行こうとしたら、キャリアが止まると感じる人もいるかもしれませんが、私は人と比べないので、それをマイナスに捉えたり不安に思ったりしたことはありませんね。
後輩に追い越されることへの恐怖はないですし、むしろ嬉しいことでもあると思っています。たとえ自分がダメでも、優秀な後輩が頑張って活躍してくれるって、最高じゃないですか。みんな同じ会社で働く仲間なんですから。
――「追い越される」という事実は同じでも、受け取り方がまったく違うのですね。それは、もともとの性格なのでしょうか?
性格もあるかもしれません。ただ、「追い越されたら悔しい」と感じるなら、なぜ悔しいのか、誰と何を比べているのか。一度自分と向き合って、そこを確かめてみると、案外、悩む必要のないことだったりします。
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「自分で選んで、仕事を取ったんです」
――産休から約9カ月で復帰し、すぐに「新TODA」のプロジェクトに参画されています。ハードな現場で、お子さまと会えるのが週末だけという時期もあったと伺いました。寂しさや、親としての葛藤はなかったのでしょうか?
なかったんです。必死すぎて(笑)。それに、私が疲弊しきった状態で一緒にいるよりも、自宅から近い場所に住んでいる私の親に見てもらった方が、子どもにとってもいいだろうなと思っていました。
確かに子どもとは週に2日しか会えない期間もありましたが、その分、濃密な時間を過ごせましたし、それで関係が悪くなったとは全く思っていません。子どもを現場に連れて行って、完成した建物を見せたときも、すごく喜んでくれました。だから、親としての負い目や葛藤はなかったですね。
――仕事をセーブしてお子さまとの時間を優先する。そういう選択肢もあったと思います。
もし担当が他の現場だったら、子どもと会えないことに不満を感じていたかもしれません。でも、「新TODA」は絶対にやりたい仕事だったんです。だから、自分で選んで、仕事を取ったという感じですね。
「弱音を吐いたら、キャリアは終わる?」
――育児に対する不安はなかった一方で、仕事面ではかなりのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた、と伺いました。
内装工事のとき、ずっと「もう無理かも」「さすがに最後までやれないかも」と思っていました。
関係者の方がそれぞれの観点や立場から異なる主張をされるので、それらを整理しながら進めるには、当時の私の経験や知識がまだ十分ではありませんでした。その対応に時間を取られてしまって、当時は本当に振り回されましたね。次第に「自分のやり方は間違っているのだろうか」と、自信を失いかけてしまったこともありました。
――そんな状況を、どうやって乗り越えたのですか?
乗り越えたという感覚はなくて(笑)。魚をさばいてましたね。夜遅くに家に帰ってから、ストレス発散で。その時期だけで40種類くらいさばいたんですけど、それでなんとか自分を保っていました。
――ストレス発散だけでは、限界もあったと思います。そうした状況を、周囲に打ち明けることに抵抗はありませんでしたか? 「弱音を吐いたら現場から外されてしまうのでは」と、抱え込んでしまう方も多いように思います。
親に子どもをずっと預けっぱなしにしてしまった時期があって、上司に「こういう状況です」と自分から伝えました。正直、内勤の部署に異動になると思っていました。
でも実際は違ったんです。上司は私を現場に残したうえで、私が得意なことや、力を発揮できる仕事に采配してくれました。見学会の対応など、初期からいた私だからこそ詳しく話せる仕事を任せてもらえて、現場に貢献できている実感もありました。
「根本が分からないまま悩むのって、時間の無駄だと思うんです」
――産休や育休、育児によってキャリアが停滞してしまうのではないか。そんな「壁」を感じる方もいらっしゃると思います。菊池さんがこれまでに歩んでこられた道のりを踏まえ、これからのキャリアを模索する女性建設技術者の方々へメッセージをお願いします。
うーん……何が壁なんですかね、むしろそれって。時間ですか? 体力ですか? 周りの目とか?
置かれている立場は人それぞれ全然違いますし、私の場合は、自分が一番幸せに働けるポジションを取りに行って、たまたま周りが受け入れてくれたという面もあります。家族や上司やチームのサポートがなかったら、現場では働けていなかったと思います。
ただ、それでもお伝えできるとしたら、まずは自分の価値観や、違和感の正体が何なのかを、一度自分と向き合って確かめてみることでしょうか。根本にあるものが分からないまま悩むのって、時間の無駄だと思うんです。
何がその前提や価値観を作っているのか、その根本は何なのか。結局、自分は何が欲しくて、何が大事で、何に悩んでいるのかという「構造」をちゃんとクリアにしてみる。
そうすれば、「今の自分にとって最適な取るべき行動」が見えてくると思いますし、納得して選べば、育児も仕事も、何でもできないわけじゃないと思います。
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取材を終えて
「何が壁なんですかね、むしろそれって」――冒頭の菊池さんの問い返しが、インタビューを終えた今、少し違って聞こえてきます。
不安も悩みも、確かにある。菊池さん自身、「家族や上司やチームのサポートがなかったら、現場では働けていなかったと思います」と率直に語っています。ただ、その悩みの正体を確かめずに、感情のまま抱え込んでいないか。菊池さんが一貫して見せてくれたのは、その問いを自分に向ける姿勢でした。
Profile
菊池 麗理(きくち れいり)
戸田建設株式会社 イノベーション本部 ビジネスイノベーション部 共創投資課 主任。2014年入社。建築工事部にて現場を経験後、ミャンマーでの海外駐在を経験。産休・育休を経て、自社の新本社ビル建て替えプロジェクト「新TODA」に参画。現場での様々な挑戦を経て自身の強みを見出し、2025年より現職であるCVC部署へ異動。建設業のイノベーション創出に向け邁進中。
保有資格
一級建築士/1級建築施工管理技士/建築設備士/コンクリート主任技士/コンクリート診断士/溶接管理技術者1級 ほか
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